28.財布の紐を握られたロッポンジン ―大量集客・大量消費を促す蜘蛛の糸―

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 2003年4月、計画開始から17年の歳月を費やして完成した「六本木ヒルズ」が、ついにオープンした。地上53階の森タワーやTV朝日本社ビルなどから構成され、昼間人口5万人、延床面積76万、店舗だけでも210を数える超ビッグな街が生まれたのだ。ブルジョワ(仏)作の蜘蛛のアート(写真(1))が、広場で来街者を出迎える。開業初日に31万人、最初の日曜日には100万人以上を動員し、2ヶ月も経たずに累計1,000万人を超えた。これは、2002年9月にオープンして話題となった丸ビル(千代田区丸の内)の倍の集客ペースである。
 六本木は都内有数のナイトタウン、高級繁華街であり、ヒルズはその性格を更に昇華させた。居住区にある「六本木ヒルズレジデンス」(写真(2))は家賃が最高で月400万円もする超高級マンションで、階層性の高さを象徴している。ヒルズの持つ高級イメージや話題性は、小金持ちの中流層や消費意欲の乏しい貧乏人をも呼び込む。だから、手作りの弁当を持ち込む物見遊山の来街者だって見ることができてしまうのだ(写真(3))。ヒルズの「集客装置としての機能」は、元来六本木とは無縁な人々も引き寄せる強大なものなのである。
 しかし、単に人を集めるだけでは収益にはつながらない。お金を落とさせるには、高所得層から中流層以下の幅広い階層に対応した「消費させるための仕掛け」が必要となる。その一例が、レストラン「juniper」(写真(4))。アトリウムテラスという奇抜な外観は見た目にも興味を引き、ランチコース2,900円という結構な、しかし何とか手の届きそうなお値段がいかにもヒルズらしい。これこそが、ヒルズならではの消費を促す仕掛けであり、来街者を確実に消費者に変えるのだ。さらに東京ドーム8個分の敷地に、大小様々なビルや坂、庭園などを複雑に配置して街を立体化させ奥行きを持たせることで、滞在時間をも引き延ばす。多数のテナントや娯楽施設は時間消費の場としての魅力を高め、来街者に快適さと同時に消費する楽しさ・満足感を与える。自然にお金を落とさせる、十分に計算され尽くした“見えざる意図”が、至る所に埋め込まれているのである。
 このように捉えると、ヒルズはさながら蜘蛛である。「集客装置」で人々を呼び寄せ、「張り巡らされた消費装置」で消費を促す。“集客と消費という二重の蜘蛛の糸”に囚われたロッポンジンは、今日も財布の紐を緩めるのだ。
写真原作者:(1)日本大学3年 松本央子 (2)同3年 坪田京子 (3)同4年 北浦宏幸 (4)同4年 佐瀬健二
(1)2003年7月23日(水)13時頃 (2)7月22日(火)13時頃 (3)7月6日(日)13時頃 (4)8月1日(金)12時頃
いずれも六本木ヒルズ(港区六本木6丁目)にて撮影

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