1．“静”者の行進 ―街メディア化の新戦術―

　飾り気のない真っ白な衣装を着た50人の女性。ラッピングバスと共に、1冊の雑誌を持ち、一言も発さず1列になって、約6キロの行程をただただ歩く。これは、5月20日(日)の12から17時に、渋谷・原宿一帯で展開されたアルバイト情報誌『an』の「タウンジャック・キャラバン」の光景である。発売元の(株)学生援護会は、マス・メディアを介した広告とは別に、街そのものをメディアに仕立てて行うプロモーションを仕掛けた。大学の新入生をコア・ターゲットにして、anブランドの浸透を図ろうとしたのだ。
　私達は普段、スピーカーやモニターからあふれ出る騒々しい音や刺激的な映像に接し続けている。そんな中、50人が一列になり黙して歩くその整った様は、雑然とした街中につかの間の静寂を作り出し、ひときわ目を惹くものとなった。若者でにぎわう街をメディア化した新戦術――それは、無秩序な情報出力社会への“静”なる対抗軸でもある。