1986年 エスニックな激辛ブーム

ATP_2008_07_01_1986年 エスニックな激辛ブーム.jpg

ATP_2008_07_02_1986年 エスニックな激辛ブーム.jpg
1986年バブル経済が始まっていた。エスニック料理に激辛を求める現象は、現代日本人が《香辛料という新しい味覚を発見する旅》だったとも云える。日本料理でもショウガやサンショウなどの香辛料が古事記に記述されている。だが肉を主食とする西洋諸国にあっては、もっと切実な欲求だった。大航海時代とは≪海のシルクロード≫を通じて東洋の香辛料を獲得する競争であったことは歴史の教科書に見られる通りだ。日本でこうした香辛料が一般的な関心を呼ぶには、バブル経済期の少しゴージャスな料理の多様化を待たねばならなかった。中国料理やフランス料理やイタリア料理に飽食した人々が求めたものは、もっとマイナーな諸外国のメニュー。もともと≪エスニック≫とはある民族から見た異民族のことだ。エスニック料理への関心には「物珍しさ」が基調にある。タイ料理、インド料理、ベトナム料理、インドネシア料理、メキシコ料理、トルコ料理、ブラジル料理、etc. そこには日本人がこれまで知らなかった豊かな香辛料(spice)の世界が広がる。インド料理だけでも、サフラン(独特の香りと苦味がある高価なスパイスで肌の色素沈着を改善する)、クミン(カレーの香りを決める重要なスパイスで消化機能を促進し下痢や腹痛に効果がある)、ターメリック鬱金(カレーの黄色の素で肝臓病や胃薬としても使用される)、ペッパー(大航海時代から肉の臭い消しや保存に効果絶大)。スパイスには元来、食材を殺菌したり、強い香りが身体に刺激を与え、疲労を癒してくれる効果もある。そうした自然薬としての作用が、農薬や化学肥料を嫌うオーガニックなライフスタイルにマッチしたともいえる。食の多様化と自然食志向の交わるところにエスニック激辛料理が求められている。

プロジェクト