28.<癒し>の寅さん ―現代人の湯治場―

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 柴又には、100年以上前から代々続いている老舗が軒を連ねている。ここ高木屋は、映画「男はつらいよ」(山田洋次監督)の「くるまや」のモデルとなった団子屋である。
 日本人にとって寅さんの存在は架空の人物ではない。渥美清さんが亡くなった(本年8月4日逝去)今でも、私たちは柴又へ行けば寅さんに会えるような気がしてしまう。なぜ寅さんが人々に広く親しまれるのだろう。それは、競争に追われひたすら突っ走る現代人の心を癒し、元気になって、生きる希望を与えてくれるから。でも、寅さんのように生きようとすると、今の世の中からはた ちまちはじき飛ばされてしまう。「男はつらいよ」自体が、そんな矛盾をはらむ現代社会を痛烈に批判していたところに、現代人の共感を呼んだとも言える。
 「よお、元気か!」。歯切れのよい寅さんの声が、今にも聞こえてきそうである。
<写真原作者:日本大学4年 吉田久美子>

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