4.「公共性」と「私性」の折り合い ―携帯電話のアイロニー―

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 京王線・新宿駅の中央改札口付近。利用者のいない公衆電話がずらりと並んでいるその向こうに、携帯電話で通話している若者が1人。二重の意味で皮肉な光景と言って良い。一つは、公衆電話が街のオブジェになりつつあるという点で。NTTによれば、PHSや携帯電話が普及し始めた1994年度以降、公衆電話の設置数も利用者も大幅に減少しているという。二つは、にもかかわらず、公衆電話近辺は安心して電話をかけられる場所であり続けているという点で。コンサート会場や病院、電車、教室内などで、着信音を鳴らされたり、話しを聞かされたりでいやな思いをさせられる人は多い。携帯(=私)電話は、公共性の高い空間をもたちどころに「私化」し、不快指数を一挙に高める暴力性を有しており、どこででも送受信できる利点が最大の欠点にもなる。だから、TPOをわきまえて携帯電話をかけようとすると、ついつい公衆電話に近づいてしまうのだ。
写真原作者:日本大学2年 浅沼伸介
1998年7月8日(水)午後3時頃
京王線・新宿駅にて撮影

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