2021年度 No.4 コロナ禍の羽田空港 ―ドメスティックとグローバルなネットワーキングの機能不全―
①羽田空港第2ターミナル
②羽田空港第3ターミナル
③羽田空港第3ターミナル
④羽田空港第1ターミナル
未曾有のパンデミックによって、「移動(mobility)」のあり方が一変した。世界各国で国際間の人流が遮断され、国内でも旅行や出張が控えられ、オンラインやリモートの比重がより一層高まった。移動を司る空港でも大きな変化が起こった。東京の「空の玄関口」である羽田空港では、国内線・国際線の相次ぐ欠航や減便、利用者の大幅な減少に見舞われた。多くの人々が行き交っていた空港には静寂が漂い、通常ではあり得ない光景を見せることとなった。
2021年夏、羽田空港では東京2020大会の開幕に向けた動きが見られた。国内線ターミナルの通路で、オリ・パラ報道写真展が開催された(写真①)。スポーツ写真専門のフォト・エージェンシーが、羽田・成田・関西・中部の各国際空港を管理運営する日本航空ビルデングの協力のもとに開催したものだ。1964年の東京大会から2016年のリオデジャネイロ大会までのメダル獲得者の写真が展示され、柔道の阿部一二三・詩選手や水泳の大橋由依選手、陸上の高橋尚子選手らが写っている。東京2020大会を盛り上げる一助にしたいということなのだろうが、展示を眺める人は少ない。
国際線ターミナルの到着ロビーでは大会関係者の姿があり、選手たちを迎えていた(写真②)。スタッフ用のユニフォームである水色の服を纏っているのは、到着する選手を誘導するボランティアである。感染防止策として採用された「バブル方式」の一環で、入国する外国人選手と一般人との接触を避けるためにベルト・パーテーションで区切っているが、所々に穴があり完全に分離できているとは言いがたい。ボランティアは密状態でもある。後ろの電光掲示板を見ると、15便のうちモスクワ、ジャカルタ、ヘルシンキ、ロンドン、フランクフルト、ローマからの5便が到着または遅延、それ以外の10便が「欠航」と掲示されている。空港は、「ウィルスの玄関口」でもある。
写真③は、到着したばかりの女子サッカーのオーストラリア代表の選手たちが待機している様子である。回りには、やたらとコカ・コーラのロゴマークが目に付く。それもそのはずで、コカ・コーラ社は今大会の最高位のスポンサー(ワールドワイドオリンピックパートナー)の1つである。右側には、同社が1928年アムステルダム大会からオリンピックと深い関わりを持ち続けていることも展示されている。ここには、スポンサー企業にとってオリンピックが絶好の広告・宣伝の場になることがよく現れている。
前作で、日本政府観光局(JNTO)が毎月発表している「訪日外客数」を参照したが、「訪日外客数(日本を訪れた外国人旅行者の数)」と「出国日本人数(海外に渡航した日本人の数)」の、パンデミック前の2019年計と最中の2021年計とを比較してみよう。日本への外国人旅行者は、2019年3,188万2,100人→2021年24万5,900人(2019年比で99.2%減)、日本人の海外渡航者は、2019年2,008万669人→2021年51万2,200人(同97.4%減)と、どちらも極端に減少した。大半が空路で出入国することを考えれば、羽田空港もまたグローバルな人流がほぼ断ち切られてしまっていることが理解できる。では、国内の人流はどうであろう。国土交通省観光庁が2022年2月16日に発表した「旅行・観光消費動向調査 2021年年間値(速報)」によれば、「日本人国内延べ旅行者数」は2019年5億8,710万人→2021年2億6,711万人で、2019年比54.5%減であった。2020年も2019年比で50.0%減だったので、2年連続でコロナ前の半分の水準が続いている。国内旅行の場合は空路と海路だけでなく鉄路も道路も使われるが、ドメスティックな人流においても大幅な停滞を招いていると見て良い。羽田空港は、人を世界と国内の各地に運んで、人と人、人と機関、機関と機関をつなぎ合わせる本来の機能を果たせなくなっているのである。
そうした中、ターミナルでは、PCR検査会場が稼働し人々が列を作って並んでいた(写真④)。PCR検査の他、出発前の利用を想定した約15分で検査結果がわかる抗原定量検査も実施している。自らの意思で世界中を動き回るには、これからもしばらく続くであろう「withコロナの時代」に適応する新しい生活の様式を生み出していくことが不可欠である。そこから、希望がうっすらと見えてくることを期待したい。
2021年夏、羽田空港では東京2020大会の開幕に向けた動きが見られた。国内線ターミナルの通路で、オリ・パラ報道写真展が開催された(写真①)。スポーツ写真専門のフォト・エージェンシーが、羽田・成田・関西・中部の各国際空港を管理運営する日本航空ビルデングの協力のもとに開催したものだ。1964年の東京大会から2016年のリオデジャネイロ大会までのメダル獲得者の写真が展示され、柔道の阿部一二三・詩選手や水泳の大橋由依選手、陸上の高橋尚子選手らが写っている。東京2020大会を盛り上げる一助にしたいということなのだろうが、展示を眺める人は少ない。
国際線ターミナルの到着ロビーでは大会関係者の姿があり、選手たちを迎えていた(写真②)。スタッフ用のユニフォームである水色の服を纏っているのは、到着する選手を誘導するボランティアである。感染防止策として採用された「バブル方式」の一環で、入国する外国人選手と一般人との接触を避けるためにベルト・パーテーションで区切っているが、所々に穴があり完全に分離できているとは言いがたい。ボランティアは密状態でもある。後ろの電光掲示板を見ると、15便のうちモスクワ、ジャカルタ、ヘルシンキ、ロンドン、フランクフルト、ローマからの5便が到着または遅延、それ以外の10便が「欠航」と掲示されている。空港は、「ウィルスの玄関口」でもある。
写真③は、到着したばかりの女子サッカーのオーストラリア代表の選手たちが待機している様子である。回りには、やたらとコカ・コーラのロゴマークが目に付く。それもそのはずで、コカ・コーラ社は今大会の最高位のスポンサー(ワールドワイドオリンピックパートナー)の1つである。右側には、同社が1928年アムステルダム大会からオリンピックと深い関わりを持ち続けていることも展示されている。ここには、スポンサー企業にとってオリンピックが絶好の広告・宣伝の場になることがよく現れている。
前作で、日本政府観光局(JNTO)が毎月発表している「訪日外客数」を参照したが、「訪日外客数(日本を訪れた外国人旅行者の数)」と「出国日本人数(海外に渡航した日本人の数)」の、パンデミック前の2019年計と最中の2021年計とを比較してみよう。日本への外国人旅行者は、2019年3,188万2,100人→2021年24万5,900人(2019年比で99.2%減)、日本人の海外渡航者は、2019年2,008万669人→2021年51万2,200人(同97.4%減)と、どちらも極端に減少した。大半が空路で出入国することを考えれば、羽田空港もまたグローバルな人流がほぼ断ち切られてしまっていることが理解できる。では、国内の人流はどうであろう。国土交通省観光庁が2022年2月16日に発表した「旅行・観光消費動向調査 2021年年間値(速報)」によれば、「日本人国内延べ旅行者数」は2019年5億8,710万人→2021年2億6,711万人で、2019年比54.5%減であった。2020年も2019年比で50.0%減だったので、2年連続でコロナ前の半分の水準が続いている。国内旅行の場合は空路と海路だけでなく鉄路も道路も使われるが、ドメスティックな人流においても大幅な停滞を招いていると見て良い。羽田空港は、人を世界と国内の各地に運んで、人と人、人と機関、機関と機関をつなぎ合わせる本来の機能を果たせなくなっているのである。
そうした中、ターミナルでは、PCR検査会場が稼働し人々が列を作って並んでいた(写真④)。PCR検査の他、出発前の利用を想定した約15分で検査結果がわかる抗原定量検査も実施している。自らの意思で世界中を動き回るには、これからもしばらく続くであろう「withコロナの時代」に適応する新しい生活の様式を生み出していくことが不可欠である。そこから、希望がうっすらと見えてくることを期待したい。
写真撮影者:①④3年阿部裕介、②③4年伊藤澪
①2021年7月26日(月)16時8分
羽田空港(東京都大田区羽田空港1~3)第2ターミナルにて撮影
②③2021年7月17 日(土)11時6分・12時43分
羽田空港第3ターミナルにて撮影
④2021年7月26日(月)15時30分
羽田空港第1ターミナルにて撮影
①2021年7月26日(月)16時8分
羽田空港(東京都大田区羽田空港1~3)第2ターミナルにて撮影
②③2021年7月17 日(土)11時6分・12時43分
羽田空港第3ターミナルにて撮影
④2021年7月26日(月)15時30分
羽田空港第1ターミナルにて撮影