日本大学文理学部社会学科学術系イベント「ソシオフェスタ」
後藤範章研究室 Online Exhibition Gallery

2021年度 No.3 原宿竹下通り―まなざしの宝探し―

①竹下通り入り口
①竹下通り入り口
②竹下通り入り口近く
②竹下通り入り口近く
③竹下通り沿い
③竹下通り沿い
④竹下通り沿い
④竹下通り沿い
東京を代表する商店街であり観光地でもある原宿の竹下通り。全長約350mの通りにファッションや飲食系の小さな店舗がびっしり軒を連ね、最新の「流行り」が次々に生み出され、常に「新しさ」が更新されていく街である。
この秘密を解き明かす鍵として、私たちが最初に注目したのは高額なテナント料である。池袋駅や新宿駅、原宿駅エリアの坪単価の相場が3~4万円であるのに対し、竹下通り沿いはおよそ10万円と並外れている。人通りが多く坪あたりの利益額が高く、また出店を狙っている店舗が多いからこそ、テナント料が跳ね上がる。だから、思うように集客できず利益を得られない店舗は即座に撤退し、成功を夢見る別の店舗が新たに参入する。
竹下通りでの生き残りと新たな出店を巡って展開するこの激烈な競争が、店舗の入れ替えを激しくさせ、商店街を絶えず更新させていくのである。そして、目新しさや流行りがあちこちの店から発信され、多種多彩な店同士の相乗効果を高めて、さらに多くの来街者を集め、繁盛店を多数出現させる。こうした好循環が竹下通り商店街の賑わいの根源にある、と言えるだろう。
しかし、コロナ・パンデミックの影響で、外国人観光客を含め来街者が大幅に減少した。東京2020大会が開催された2021年8月の「訪日外客数」は2万5,900人と、COVID-19影響前の2019年同月比で99.9%も減少した(日本政府観光局の報道発表資料)。竹下通りを含む原宿駅から半径500m圏内の昼間の人流も、2020年1月と比べて約5割減少した(株式会社AgoopのGPSによる解析)。原宿駅側から写した写真①②と、通りの半ばで写した写真③④を比較してみると、通行人の密度に大きな差があることが分かる。原宿駅に電車が到着した直後は、大勢の人が竹下通りに一気に流れ一時的に密な状態を作り出すのだが(①②)、時間が経過し商店街の奥に行くにつれてまばらになっていく(③④)。以前にはあまり見られなかった光景である。
この結果、利益が減少し、テナント料を払い続けることができずに去っていく店舗が増加した。感染の収束は見込めず、人通りも回復しないため、通常ではすぐ埋まるはずのテナントも空いたままの状態が続いてしまう。かくして、降りたシャッターや「テナント募集」の張り紙が目立つようになる(③④)。また、オリンピックが無観客開催となったことで、有観客であれば見込めたはずのオリンピック関連客もいなくなり、人通りの回復がさらに遠のいてしまう。
負のサイクルに陥っているようにも見える竹下通りであるが、それでも来街者を一定数確保していることもまた事実である。写真をよく見ると、秘密を解き明かすもう一つの鍵が見えてくる。店に「まなざし」を向ける人々の姿である。写真①にも②にも③にも④にも、あちこちに視線を向ける人々がしっかりと写っている。
そこで私たちは、2021年10月27日(水)、街ゆく人々が何を見つめ、それがどのような行動に結びついていくのかを調査した。「どこに視線がいくか」という問いに対し、「美味しそうなものがあったら」(15歳女性)、「マネキンとかが可愛かったら」(25歳女性)等といった回答が得られた。「入店したくなる店」について聞くと、「流行りのものがあるところ」(14歳女性)、「店頭に何を置いているかが(入店の)基準になるかもしれない」(19歳男性)等という答えを得た。人々は、店頭の様子や自分の興味、流行りなどの様々な観点から通りや店を見つめて、入店するかどうかを判断する。高校生の男性が、「宝探しに来た感じ」、「(予め行きたい店がなくても)歩きながら見つけて、気になったら入ってみる」と語っているように、まなざしを向けることで宝物を探し出しているのである。
竹下通りは、「まなざし」による「宝探し」によって、訪れるたびに新しい発見を人々に与える街でもあったのだ。コロナ禍で店の入れ替えや街の更新の度合いが鈍くなっているとは言え、竹下通り商店街の魅力は維持・再生され続けている、と見て良いのではなかろうか。
写真撮影者:①4年建部宏太、②~④3年田端兼己
①~④2021年7月7日(水)15時28分・15時39分・16時06分・15時59分
原宿竹下通り(東京都渋谷区神宮前1丁目各地)にて撮影

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