日本大学文理学部社会学科学術系イベント「ソシオフェスタ」
後藤範章研究室 Online Exhibition Gallery

2022年度No.4 丸の内1丁目の団体集合場所 ―地面の下と上に存在する唯一無二の贅沢空間―

2012年に1914(T3)年創建当時の姿に復元された荘厳な赤煉瓦造りの東京駅丸の内駅舎には、天皇の貴賓室があり、写真④に写る左側の丸ビルと右側の新丸ビルの間の行幸通り(幅73m・長さ190m)の先には皇居がある。JR東京駅は主要路線の起点(ゼロポイント)が置かれる日本の「中央駅」であるが、かつては紛れもなく「天皇(制国家)の駅」でもあった。

地下に足を踏み入れると、写真①のような広々とした空間が広がる。同じ東京駅でも丸の内の反対側にある八重洲口地下は、東京駅一番街や八重洲地下街といった大ショッピング街と化している。丸の内口地下では商業利用は限られており、広大な空間を人々があらゆる方向に向かって歩く姿が目立つばかりだ。

その地下空間の一角に、写真②の「団体集合場所(学生用)」がある。主に、東京近辺の中学校・高校の修学旅行(団体旅行)の際の集合場所として使われている。写真には、床に体育座り(囚人座り)させられている多数の中学生が、教師とおぼしき人物の話を聞いている様子が写っている。これから新幹線に乗って京都辺りに行くのであろうか。こうした光景は、私たちがフィールドワークのためにここを訪れた際には、ほぼ毎回見ることができた。日常的に頻繁に利用されているのだ。

写真③の案内標識は、丸の内南口の改札をくぐって直進した所にある、駅舎の出入口上部に設置されている。皇居方面には地上をそのまま真っ直ぐ進むように、団体集合場所とJR京葉線、地下鉄丸ノ内線・東西線の乗り場に行くには正面の階段から地下へ降りるように誘導している。「団体集合場所」が最も大きな字で強調されていることからも見当が付くように、この場所はJR東京駅が設置し管理している。ここを利用していた学校の関係者に取材したところ、修学旅行を請け負う旅行会社がJR側と調整して場所や日時が伝えられ、並ぶ方向や滞在時間なども細かく決められているという。また、私たちがJR東海の新大阪駅と京都駅、JR西日本の広島駅に問い合わせたところ、これらの駅では団体が集合できる場所を地上に用意してはいるものの、どこも明確に団体集合場所と定めてはいなかった。ここまで大規模でハッキリした団体集合場所を地下に設置しているのは、東京駅だけである可能性が高い。

写真④は「東京駅丸の内駅前広場」である。地下にある集合場所の地上部にあたる。修学旅行生と思われる団体が立ったまま乱雑に集まっており、キャリーケースや土産袋も写っている。広場の警備員の話しによると、こうした利用は結構多く見られるようだ。だが、JR東日本に話を聞くと、地上の広場は団体集合場所としては指定していないとのことだった。この広場は、JR東日本が2012年に丸の内駅舎を復元した5年後の2017 年に完成した。それ以前は駅前ロータリーとなっており、沢山のタクシー等が行き交い、人々が長居できるような場所ではなかった。

2014年7月、JR東日本は、「首都東京の顔」である丸の内駅舎に相応しい「格調と賑わいのある」駅前広場を、「行幸通りとのデザインの一体性」が取れるように整備する計画を発表した。同時に、「東京駅丸の内地下エリア整備」の計画についても発表した。東京駅の地下1階改札内外のコンコースや駅業務施設等を含め約1万9千㎡もの地下空間を、「Tokyo Station City」をコンセプトとして一体的に開発することが謳われており、その中に約3千5百㎡の新たな東京駅地下の待合せ広場(仮称「地下南口待合広場」)を整備することも明記されている。団体集合場所はこの待合広場の一角をなし、全体の完成時期は2017年とされた。つまり、「東京駅丸の内駅前広場整備」と地下待合広場を含む「東京駅丸の内地下エリア整備」は連動しており、JRは丸の内の地下と地上に新たな都市空間を開発・整備することを同時進行させたのである。

東京駅丸の内駅舎と行幸通りの間に位置するこの広場に立って、駅舎側と皇居側を一望してみよう。美しく格調高い景観であると共に、広場が実に広々としていて贅沢な空間となっていることが理解できるだろう。東京駅丸の内駅舎から皇居に至る一体的な都市空間整備に関しては、2020年に「土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞」の最優秀賞が贈られている。地下に降りて眺めてみると、ここでも広々として贅沢な空間であることが実感できる。

皇居の唯一無二性、東京駅丸の内駅舎の唯一無二性、丸の内地区全体の歴史と都市景観の唯一無二性が、地面の下と上に広がる贅沢空間に唯一無二性を与えるのである。

写真撮影者:①②4年田端兼己、③4年國村友里子、④4年小島愛菜
①2022年7月6日(水)8時39分・②同日8時20分 JR東京駅丸の内南口地下1階(東京都千代田区丸の内1丁目)にて撮影
③2022年9月15日(木)15時02分 東京駅丸の内南口(丸の内1-9)にて撮影
④2022年10月14日(金)12時31分 東京駅丸の内駅前広場(丸の内1-9)にて撮影