日本大学文理学部社会学科学術系イベント「ソシオフェスタ」
後藤範章研究室 Online Exhibition Gallery

2021年度 No.5 何のためのオリンピック?―東京2020オリ・パラが問いかけるもの―

①東京オリンピック開会式
①東京オリンピック開会式
②国立競技場近く②国立競技場近く
③有明テニスの森駅ホーム
③有明テニスの森駅ホーム
④東京都庁
④東京都庁
東京2020オリンピック大会は、1年の延期を経て2021年7月23日(金)に開会式が執り行われた。写真①は、後藤ゼミOGが海外放送局の特派員として国立競技場内部から撮影したものである。聖火台に火が灯り(点火は23時45分)、選手が退出し始めていることからも分かる通り、式が終わった頃の光景である。観客席も奥の方は一見人が入っているように見えるが、空席が目立たない様に座席に工夫がされているだけで、実際には無観客だった。
同じの日の昼過ぎ、ブルーインパルスが曲芸飛行を行うということで、一目見ようと国立競技場付近には多くの人が集まっていた。NTTドコモの携帯電話の位置情報データから推計した滞在人口は、12時台に5,200人を超え、前日の3倍以上に膨れ上がっていた。写真②には、国立競技場とブルーインパルスの軌跡と共に、スマホや一眼レフカメラを向けている大勢の人々が写り込んでいる。写真左上の隅に青地に白色の「可」が判読できるが、場所は河出書房新社の本社屋前である。
写真③は、東京臨海新交通臨海線ゆりかもめ「有明テニスの森駅」の豊洲方面のりばの8月1日(日)昼前の様子である。目の前に有明アーバンスポーツパークが左側から右へと広がり、BMXレーシングの無人の会場の右隣で、写真には写っていないが男子のBMXパーク決勝が行われていた。この競技にはメダルが有力視されていた中村輪夢選手が出場するため、人々が押し掛け、持参した台座に乗って撮影していた人もいた。結果は5位だった。
人々がオリンピックに熱を入れる現象が観察できた一方で、莫大な予算を費やしグローバル企業を儲けさせるオリンピックのあり方や、新型コロナウィルスの感染拡大が危惧されることなどを理由に、大会開催に否定的な人々も多くいた。写真④は、6月23日(水)午後6時過ぎに東京都庁第1本庁舎2階玄関前の歩道周辺で撮ったものである。オリンピック反対の人々が、「オリンピックは私たちを殺す」というメッセージを、全国・全世界で同時多発的に仕掛けたデモで訴えた。「命が大事」と書かれた手作りのプラカードや「軍隊で平和はつくれない」という幟も見られ、社会運動に熱心な人々が集まっていた。
参加者の7人にインタビューしたところ、外国人教師は「公共資源を浪費し、稼ぐのは資本家だけだ」と語った。男女2人組は「多くの人が反対しているのに強行するってところに、権力者・為政者がこの大イベントを通してお祭り気分を作って、大金儲けするっていう本質が現れている」と、オリンピックという「祝賀」が利潤追求する格好な機会を作り出していることに苦言を呈した。最初の「趣旨説明」で言及した「祝賀資本主義」の「構図」がくっきりと浮かび上がっている、と言えるだろう。
さらに見落とせない点は、大会開催に伴い新型コロナ感染者が大幅に増大した事実である。既述の通り、第32回オリンピック競技大会(7/23~8/8)と第16回パラリンピック競技大会(8/24~9/5)で構成される東京2020大会は、第5波(6月下旬~9月下旬)の最中の、しかも4度目の緊急事態宣言発令(7/12~9/30)中に開催された。オリンピックが始まった7月23日には、新規感染者4,234人、重傷者431人だったが、8月20日には新規感染者が過去最高の25,992人になり、重症者も9月3日に2,221人を記録した。大会組織委員会も政府も東京都も、東京2020大会が感染拡大をもたらさなかったと強弁したが、それはバブルの内側(アスリートや大会関係者)に限ったことであり、オリンピック開催が東京及び国内の感染拡大を押し広げた間接的な要因になったことは間違いない。
オリンピック憲章は、オリンピック・ムーブメントの理念の一つに「連帯」を掲げている。しかしながら、現実は、オリンピックに熱中する人々と反対する人々との「分断」「対立」、祝賀に乗じて利益を受ける主催者・政府・メディア・スポンサー連合と感染リスクや負債を背負わされる都民・国民との「利益相反」を生んでしまった。「東日本大震災から見事に復興した姿を世界に示す」「人類が新型コロナに打ち勝った証しとする」という安倍晋三元首相が声高に述べた五輪スローガンが、虚しい余韻を残すばかりである。
写真撮影者:①後藤ゼミOGマヘルプル・ルヒナ、②③3年中村圭佑、④4年岡田真穂
①2021年7月23日(金)東京2020オリンピック大会の開会式中
国立競技場(オリンピックスタジアム)内にて撮影
②2021年7月23日(金)12時41分
国立競技場(東京都新宿区霞ヶ丘町10-1)周辺にて撮影
③2021年8月1日(日)11時21分
東京臨海新交通臨海線・有明テニスの森駅のホーム(東京都江東区有明1-9)にて撮影
④2021年6月23日(水)18時53分
東京都庁(東京都新宿区西新宿2-8-1)にて撮影

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