2021年度 No.1 灯火管制下の都心点描―盛り下げるための消灯と盛り上げるための点灯―
①歌舞伎町一番街
②渋谷スクランブル交差点
③東京駅丸の内駅舎
④東京タワー
2021年4月25日(日)、政府は東京・大阪・兵庫・京都の4都府県を対象として3回目の緊急事態宣言を発令し、酒類を提供する飲食店には休業または酒類の提供をやめて営業時間を午後8時までに短縮することを要請した。これに伴って東京都の小池百合子都知事は、夜間の人流を抑制するための措置として街のネオンサインやイルミネーション、店舗照明を午後8時に落とすよう「強く」求めた。事実上の「灯火管制」を敷いたのである。
写真①と②は、東京を代表する大繁華街の様子を切り取ったものである。①は夜10時過ぎの新宿歌舞伎町、②は夜8時過ぎの渋谷スクランブル交差点。「歌舞伎町一番街」のネオンは確かに消されており、渋谷の駅前も人手は多いが暗がりが広がっている。だが、雑居ビルが立ち並ぶ一番街の奥は煌々とし、手前にはビジネスマンらしき男たちが横並びで歩いている。営業中の居酒屋で一杯やった後なのかも知れない。渋谷も消灯要請に応じる大型店が目立つ一方、あちらこちらでネオンが灯っている。政府の要請に反して営業を続け、客で賑わう居酒屋も少なくない。
私たちは、2021年10月27日(水)に、歌舞伎町で居酒屋やバーを営む3店で店長2名と従業員1名にインタビューし、回りの店の様子を含めて振り返ってもらった。その結果、休業や消灯の要請に対しどう感じ、どのように対応したかは個々の店舗によって大きく異なることが分かった。「会社の判断と指示に従って」「やむを得ないと考えて」要請に応じた店がある一方で、「給付金の支給額では家賃すら賄えないので」休業・時短要請にも消灯要請にも応じず営業した店もある。また、歌舞伎町の商店街振興組合は一番街のネオンサインの消灯はしたものの、個々の店に対して消灯や休業・時間短縮を働き掛けることはなかったようだ。
実態として、それぞれに阿諛追従(あゆついしょう)、面従腹背(めんじゅうふくはい)、気随気儘(きずいきまま)に振る舞う店舗が新宿でも渋谷でも混じり合って存在し、大繁華街がコロナ禍にあって生き残こる道を模索したのである。①と②の暗がりの中の灯りは特に、「生きていくために」放たれた店舗関係者の意思を表象する灯りでもあったのだ。
写真③は東京駅丸の内駅舎。消灯要請を受け、平日の午後8時を過ぎたばかりなのに駅舎はほぼ真っ暗だ。でも、不思議なことに東京オリ・パラのカウントダウンクロックだけはまばゆく輝き、64日と21時間58分03秒後の2021年7月23日(金)午後8時に大会の開会式が始まることを告げている。
写真④に写っている東京タワーは、3回目(4/25~6/20)ではなく4回目(7/12~9/30)の緊急事態宣言下のものである。3回目の宣言が発令されていた2021年5月段階では、要請通り8時以降は消灯していた。ところが、オリンピック開催1週間前の7月16日(金)からパラリンピック大会が終了する9月5日(日)までは、オリ・パラに集まるアスリートたちのためと銘打ち、一転して朝5時まで夜通し(オリンピック終了日からパラリンピック開幕前日までの期間は24時まで)ライトアップを行なった。4回目の緊急事態宣言発令中で各地に消灯を要請している状況にあったにもかかわらず、東京2020大会を盛り上げるためにライトアップされたのである。
つまり、感染を「盛り下げる」ための市民ファーストな「消灯」とオリ・パラを「盛り上げる」ためのオリ・パラファーストな「点灯」が、同じ緊急事態宣言下で政府や東京都等によって「同時に」繰り広げられたことになる。いずれも「(現代版の)灯火管制」と言って良いだろう。③と④のオリ・パラの灯りは特に、政府(中央及び地方政府)やオリ・パラ推進機関の「矛盾」をはらんだちぐはぐぶりを表象する灯りでもあったのだ。
だが、この「矛盾の表出」は、消灯要請に限ったことではなく、「コロナ・パンデミックと東京オリンピック」のうちに一貫して看取することができる。次の作品以下で、さらに詳しく見ていくことにしよう。
写真①と②は、東京を代表する大繁華街の様子を切り取ったものである。①は夜10時過ぎの新宿歌舞伎町、②は夜8時過ぎの渋谷スクランブル交差点。「歌舞伎町一番街」のネオンは確かに消されており、渋谷の駅前も人手は多いが暗がりが広がっている。だが、雑居ビルが立ち並ぶ一番街の奥は煌々とし、手前にはビジネスマンらしき男たちが横並びで歩いている。営業中の居酒屋で一杯やった後なのかも知れない。渋谷も消灯要請に応じる大型店が目立つ一方、あちらこちらでネオンが灯っている。政府の要請に反して営業を続け、客で賑わう居酒屋も少なくない。
私たちは、2021年10月27日(水)に、歌舞伎町で居酒屋やバーを営む3店で店長2名と従業員1名にインタビューし、回りの店の様子を含めて振り返ってもらった。その結果、休業や消灯の要請に対しどう感じ、どのように対応したかは個々の店舗によって大きく異なることが分かった。「会社の判断と指示に従って」「やむを得ないと考えて」要請に応じた店がある一方で、「給付金の支給額では家賃すら賄えないので」休業・時短要請にも消灯要請にも応じず営業した店もある。また、歌舞伎町の商店街振興組合は一番街のネオンサインの消灯はしたものの、個々の店に対して消灯や休業・時間短縮を働き掛けることはなかったようだ。
実態として、それぞれに阿諛追従(あゆついしょう)、面従腹背(めんじゅうふくはい)、気随気儘(きずいきまま)に振る舞う店舗が新宿でも渋谷でも混じり合って存在し、大繁華街がコロナ禍にあって生き残こる道を模索したのである。①と②の暗がりの中の灯りは特に、「生きていくために」放たれた店舗関係者の意思を表象する灯りでもあったのだ。
写真③は東京駅丸の内駅舎。消灯要請を受け、平日の午後8時を過ぎたばかりなのに駅舎はほぼ真っ暗だ。でも、不思議なことに東京オリ・パラのカウントダウンクロックだけはまばゆく輝き、64日と21時間58分03秒後の2021年7月23日(金)午後8時に大会の開会式が始まることを告げている。
写真④に写っている東京タワーは、3回目(4/25~6/20)ではなく4回目(7/12~9/30)の緊急事態宣言下のものである。3回目の宣言が発令されていた2021年5月段階では、要請通り8時以降は消灯していた。ところが、オリンピック開催1週間前の7月16日(金)からパラリンピック大会が終了する9月5日(日)までは、オリ・パラに集まるアスリートたちのためと銘打ち、一転して朝5時まで夜通し(オリンピック終了日からパラリンピック開幕前日までの期間は24時まで)ライトアップを行なった。4回目の緊急事態宣言発令中で各地に消灯を要請している状況にあったにもかかわらず、東京2020大会を盛り上げるためにライトアップされたのである。
つまり、感染を「盛り下げる」ための市民ファーストな「消灯」とオリ・パラを「盛り上げる」ためのオリ・パラファーストな「点灯」が、同じ緊急事態宣言下で政府や東京都等によって「同時に」繰り広げられたことになる。いずれも「(現代版の)灯火管制」と言って良いだろう。③と④のオリ・パラの灯りは特に、政府(中央及び地方政府)やオリ・パラ推進機関の「矛盾」をはらんだちぐはぐぶりを表象する灯りでもあったのだ。
だが、この「矛盾の表出」は、消灯要請に限ったことではなく、「コロナ・パンデミックと東京オリンピック」のうちに一貫して看取することができる。次の作品以下で、さらに詳しく見ていくことにしよう。
写真撮影者:①4年武田航輝、②4年三浦綾華、③4年武田航輝、④3年山口航平
①2021年5月10日(日)22時19分
新宿歌舞伎町(東京都新宿区歌舞伎町1-23-15)にて撮影
②2021年5月8日(水)20時4分
渋谷スクランブル交差点(東京都渋谷区道玄坂下)にて撮影
③2021年5月19日(水)22時2分
JR東京駅丸の内駅舎前(東京都千代田区丸の内1丁目)にて撮影
④2021年7月21日(水)20時3分
東京タワー(東京都港区芝公園4-2-8)にて撮影
①2021年5月10日(日)22時19分
新宿歌舞伎町(東京都新宿区歌舞伎町1-23-15)にて撮影
②2021年5月8日(水)20時4分
渋谷スクランブル交差点(東京都渋谷区道玄坂下)にて撮影
③2021年5月19日(水)22時2分
JR東京駅丸の内駅舎前(東京都千代田区丸の内1丁目)にて撮影
④2021年7月21日(水)20時3分
東京タワー(東京都港区芝公園4-2-8)にて撮影