日本大学文理学部社会学科学術系イベント「ソシオフェスタ」
後藤範章研究室 Online Exhibition Gallery

2022年度No.3 地下街のワークスペース ―「東京」中心部に見る4類型―

近年、場所を選ばない自由な働き方志向が強まり、また新型コロナウィルス・パンデミックの影響もあって、ノマドワークやテレワークが普及し、街中にワークスペースが増殖するようになっている。

JR東日本の「STATION WORK」は、駅ナカやホテルや商業施設などで「STATION BOOTH」「STATION DESK」「ホテルシェアオフィス」「WeWork」といった名称のワークスペース事業を幅広く展開している。2022年11月現在で稼働させている全国664箇所のワークスペースを所在地別に整理してみると、東京都内に218箇所(32.8%)、うち千代田・中央・港・渋谷・新宿・豊島・台東の都心7区に148箇所(全国の22.3%、都内の67.9%)、JR東京駅周辺だけで51箇所(7.7%、23.4%)もあり、巨大都市の中心部に偏在していることがわかる。

東京駅と丸の内・八重洲・銀座地区を丹念に歩き回ると、1)東京の都心では地下空間にワークスペースの大半が置かれていること、2)それらは写真①に代表される「完全個室ブース型」、写真②の「選択可能型」、写真③の「会員制高級貸会議室型」、写真④の「無料オープン型」の4類型に分けられること、が判明した。

①と②は上記「STATION WORK」が提供し、基本料金が15分250円程度と短時間を手軽に利用することができる。①は、JR東京駅の総武線地下4階にある「STATION BOOTH」で1名用となっている。外部の音を遮断する個室に、机、椅子、モニタ、USBポート、電源、無料Wi-Fi等が完備されている。ここはホームへ続く階段・エスカレーターの脇に設置されていることもあって、電車での移動や乗り降りの合間に利用する人が多い。利用者に聞き込み調査を実施したところ、乗り換え時に数分だけ打ち合わせを行ったり、子どもの迎え時間を待つ間にミーティングを行ったりなどと、静かな環境下でWeb会議を行う人が多くを占めた。②は、丸の内の地下通路にある「STATION DESK」である。大きな「S」字の扉の向こう側にある。「STATION DESK」は東京都と横浜市の限られた駅にしか存在しないワークスペースであり、1名~複数人で利用できる。「Booth」は非会員でも利用できるが、「Desk」は(「ホテルシェアオフィス」や「WeWork」も)登録会員しか利用できない。1~数名用のWeb会議可能なスペースもあれば、会話不可の共用スペースもあり、時々のワークスタイルに応じて選択することができる。

①②のような気軽に利用できるワークスペースがある一方で、③のような高級感漂う貸会議室もある。これは東京駅八重洲地下街2階にある会員制貸会議室「八重洲倶楽部」である。6名用~36名用まで10もの会議室があり、料金は2時間までの利用で6名用7千円、36名用2万5千円となっている。隙間時間で仕事を行うためというよりは、複数人が対面で会議等を時間をかけて行うための施設である。会社単位の会議やセミナー会場として用いたり、オフィスを持たない会社が会議室として使っている。八重洲倶楽部がある八重洲地下街には、地上やビルとつながる26もの出入口があり、周辺の企業も利用しやすい。

また、④のようなオープン型ワークスペースもある。ここは銀座駅近くの地下通路に位置し、誰もが無料で利用できる。2017年、東京メトロは、移動中にパソコンを使いメールの確認や情報検索を行う人が銀座駅周辺に一定数いることから、ここにワークスペースを設置した。写真には、パソコンで作業しているスーツ姿のビジネスマンも写っている。壁で仕切られているわけではないが、人がそこに留まって作業するワークスペースと人々が絶えず行き交う通路とが、天井や床のデザインを異にすることで明確にゾーニングされている。そのせいだろうか、短時間とは言え人目や雑音を気にすることなく作業に集中する人々が多数観察できた。

以上のように、東京の都心部には「完全個室ブース型」「選択可能型」「会員制高級貸会議室型」「無料オープン型」の大きく分けて4つの形態のワークスペースが数多く存在し、高頻度で使われている。東京駅は、JRの16もの路線(これとは別に地下鉄1路線)が乗り入れる日本の中央駅であり、巨大な地下空間も有している。この東京駅を取り囲むように、地下鉄5路線が通る大手町駅、4路線が通る日比谷駅、3路線が通る銀座駅、3路線が通る日本橋駅、その他の地下鉄駅が地下通路で結ばれている。その距離、実に約4.7km。この極めて濃密な地下鉄網と日本一長いと言われる地下通路上の、東京駅を中心とする丸の内・有楽町・銀座・八重洲・日本橋の一帯に、東京/日本のビジネスと商業の一大拠点が広がっているのである。東京都心の地下に多様なワークスペースが集中する理由を、事細かに説明する必要はもはやないだろう。

写真撮影者:①④4年加藤唯、②4年関根楓斗、③4年大牧美衣奈
①2022年8月31日(水)13時07分 東京駅改札内のSTATION BOOTH(東京都千代田区丸の内1-6-4)にて撮影
②2022年11月27日(日)10時23分 STATION DESK 東京丸の内(千代田区丸の内2-4-4)にて撮影
③2022年6月22日(水)13時32分 八重洲倶楽部(東京都中央区八重洲2-1)にて撮影
④2022年7月6日(水)15時31分 銀座駅改札外の通路(中央区銀座4-1-2)にて撮影