日本大学文理学部社会学科学術系イベント「ソシオフェスタ」
後藤範章研究室 Online Exhibition Gallery

2021年度 No.6 足下で深刻化する貧困の連鎖―新たな生活困窮者を生み出すメカニズム―

①豊島区立東池袋中央公園
①豊島区立東池袋中央公園
②豊島区立東池袋中央公園
②豊島区立東池袋中央公園
③東京都庁
③東京都庁
④配布された食べ物
④配布された食べ物
路上生活者(ホームレス・野宿者)が生き抜くために食事の提供を無料で受ける炊き出しの現場で、異変が起きている。コロナ禍で、炊き出しができなくなったことに加えて、従来とは異なる層の人々が集まるようになったのである。
写真①と②は、特定非営利活動法人TENOHASIが東池袋公園で行っている活動を写したものである。TENOHASIは、2003年に活動を開始して以来、ホームレスを主対象に炊き出しと医療・生活相談等にあたってきた。①の通り、この日も大勢が列をなしていた。最後尾にいる係員が手に持っている「弁当 最後尾」とある看板には、「無料Wi-Fi使えます」「スマホ充電できます」とも書かれており、スマートフォンが命を繋ぐ上でも必需品になりつつあることがわかる。②は食べ物を実際に受け取っている場面である。TENOHASIは、温かいスープやご飯などの炊き出しを行ってきたが、感染防止の観点から2020年3月に外注の弁当を配る方式に切り換えた。
写真③は、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい等の団体が協働して東京都庁第一庁舎前で実施している「新宿ごはんプラス」(食事提供&ワンストップ相談会)に向かう人々の様子である。写真④はこの日約370人に配られた1人分の食料で、寄付によって賄われている。
東京では、これらの他にも多くの民間団体が日時をずらして決まった場所で食事の提供等の活動を行っているが、どこも列に並ぶ人が確実に増えている。TENOHASIの「会報誌」第42号(2021年12月10日発行)には、2020年4月~2021年11月27日の各回の「炊き出し利用者」のグラフが掲載されている。それによると、2020年中は概ね200人台で推移していたが(1年間の平均237人)、2021年になって増え始め(上半期だけで平均360人)、11月27日には過去最高の472人を記録するに至った。そして、(1)2,30代の若者が目立つようになった、(2)女性や親子連れも珍しくなくなった、(3)家を失ったホームレス状態の人が全体の1/3に留まり、家は「まだ」あるが生活に困窮している人が2/3を占めるようになった、などという重要な知見も示されている。
そこで、写真を改めて見直してみよう。ジャケットに身を包む男性や軽装の女性など、服装も年齢もバラバラだが、「普通」の格好をした「普通」の生活を営んでいるように見える人が多い。私たちが新宿ごはんプラスで行ったインタビュー調査で、Aさん(70代の男性ホームレス)は「最近は若い方や女性、学生も増えてきて、みんな大変なんだな」と語り、コロナ禍で解雇や雇い止め、仕事量の減少等に見舞われ、「新たな生活困窮者」に陥ってしまう人が増大していることを肌身で感じ取っていた。Bさん(40代の男性)は、「一度困窮者になってしまうと、定職に就くことが難しく、抜け出すこともできない」と語った。Bさん自身、コロナで定職を失い、派遣社員として再就職したが、オリンピック前にあっさりと首を切られてしまったそうだ。
そうした人が多くなっている状況下で、東京2020大会は開催された。炊き出しで命を繋いでいる人たちが沢山いるのに、大会主催者は13万461食もの弁当を廃棄した。1食890円なので、1億1600万円もの公金がドブに捨てられたことになる。TENOHASI代表理事の清野賢司さんによると、廃棄される弁当をTENOHASIがもらい受ける方向で話しが進みかけたが、連絡が途絶えてしまったという。オリンピックのもたらしたものはこれだけではない。Bさんは、「駅や繫華街にいたホームレスがオリンピックのイメージアップのために、居場所を奪われたことも問題だ」と語っていた。
私たちは、2019年に発表した作品「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を控えて ―排除か包摂か―」で、「経済的にも社会的にも最も弱い立場にある人々を、分断・排除して表面を繕う都市にしていくのか、包摂して社会が生み出す構造的な問題の解決を目指す都市にしていくのか。東京2020大会を前にして、東京と市民一人一人に問われることになる」と述べた。大会の強行開催によって可視化された「現実」は、私たちの期待していたものとはほど遠い。コロナ禍とオリンピックによって、私たちの足下で貧困の連鎖がより一層深まっているのである。
写真撮影者:①4年三浦綾華、②~④3年荻野哲平
①②2021年8月14日(土)18時00分・18時11分
豊島区立東池袋中央公園(東京都豊島区東池袋3-1-6)にて撮影
③④2021年10月23日(土)14時7分・14時29分
東京都庁前(東京都新宿区西新宿2-6)にて撮影

関連する過去作品